■ EAR paravicini 312 & EAR912 ■




11月28日の夕方、拙宅にEAR912の試聴機がやって来ました。
試聴して、まず、思ったこと。
「やっぱり、Paraviciniの専門は真空管アンプだ」

トランジスターアンプとしては、
EAR paravicini 312は確かにかなり良い出来映えですが、 EAR912は、その上を行くようです。
EAR paravicini 312もトランス接続でParavicini作らしい音作りですが、 それはあくまで最も得意とする真空管プリアンプの延長線上で、最新のトランジスター・アンプならではの音作りまでは至っていないように思います。
あるいは、かつて、EAR paravicini 312とセットで出た Paravicini M100と組み合わせることを前提とした音作りだったのかも知れません。

拙宅で使用しているOCTAVE HP500SE/LEは、いかにもドイツを思わせる堅実な音作りで、 少し引いた感じで客観的に描写しようとするのに対して、EAR912の音は、人肌の温もりが伝わって くるほど演奏者との距離感が近く、吐息や唇の濡れ具合まで目前に迫ってくる感じで、その色気たっぷりのサウンドは、かつて私をとろけさせた、EAR V20の延長線上にあります。

先だって10月25日に試聴したEAR paravicini 312は音が少し硬質で、やや単調になりがちでしたが、
EAR912はバネのようなしなりがあって、それでいて弾ける時はパーンと、勢いよく目一杯弾けてくれます。
その弾け方が色気も伴いながらの、しなって弾力のある、ちょっとエロチックな感じで、やっぱりParaviciniはスケベだなぁ、と改めて感心した次第。

と、ここまで持ち上げといて書くのもなんですが、ダイレクトにLINN Klimax DSからFirst Watt SIT-1に接続、音出ししてみて、思わず唸ってしまいました。
それと言うのも、フルテックの電源プラグ、Fl-50M(R)Fl-50(R)に換装したAET Evidenceを繋いで、ダイレクト接続では今まで聴いていなかったのです。
そのクリアさ、色彩感の豊かさ、前後感・奥行きの深さ、空間の広がりの見事さ……。
ヴェールがかかっていたのが数枚、取り払われたような感触です。

EAR paravicini 312の時もそうでしたが、プリアンプを繋いだらEAR色のヴェールが かかってしまって、色彩感とか、空間の広がりとかが減弱してしまいます。
ローエンドの出方も、ダイレクト接続に較べて自然な伸びやかさが影を潜め、ちょっと帯域が狭くなったような感じがします。
一方で、EAR独特の色気は加味され、力感は増します。
OCTAVE HP500SE/LEでは色彩感やローエンドの出方にそこまでの減弱感がなく、これはひょっとすると 拙宅のOCTAVE HP500SE/LEは真空管がテレフンケンとムラードに換装しているお陰なのかもしれません。

そういえば、昨年、12月6日にOCTAVEの最上位プリアンプ、Octave Jubileeを試聴した時にも、音が荒く、しなやかさが乏しく、音に余裕がないように感じました。 その時も真空管を交換したらどうだろう、という話もありましたが、結局、現状のOCTAVE HP500SE/LE を上回る魅力を感じる部分がなく、購入は諦めたという経緯があります。

かつて、プリアンプ無しでLINN CD12からダイレクト接続を試みていた頃は、間にボリューム・パッシブコントローラーを入れないといけなくて、 そうすると音の力感が落ちるだけでなく、色彩感等まで色褪せてしまっていました。
それが、DSだとDS側で出力ボリューム調整が出来てしまい、しかもフルボリュームだとアンプの音が歪んでスピーカーが飛んでしまう のではないか、と思うくらい出力電圧十分高くて、通常の音量では音の鮮度といい、空間描写能といい、かなり満足いくレベルに到達しています。
と言うか、プリアンプを間に入れることによって、Klimax DSからFirst Watt SIT-1へのダイレクト接続を上回る魅力のある音を聴かせてくれるプリアンプが、 今のところ、見当たらないのです。

これは困りました。
拙宅で使用しているOCTAVE HP500SE/LEは、鮮度や前後感は若干落ちるものの、最もダイレクト接続の音質に近く、 音の魅力ではEAR912も捨て難いけれど、素直さ、鮮度、色彩の豊かさの点でダイレクト接続に一歩譲ります。
EAR912の真空管を交換して、手持ちのムラードの6DJ8を使用してみれば、 EAR912の更なる可能性を確認することが出来るかもしれません。
これが試聴機でなければさっさと試してみるところですが、さすがに購入して試すには、大枚200枚はたかねばならず、ちょっと躊躇してしまいます。
しかもそういう改造を加えると、保証が効かなくなってしまいます。
本当に悩むところです。

そして、もう一つ。
せっかく、EAR912買おうかな、という気が少しなりとも出ている時に、「納期は1月下旬」と 言われてしまうと、正月休みに真空管を替えて鳴らし込んで、遊んでみようかな、という気も失せてしまいます。
高額オーディオ製品が売れない売れないと嘆く前に、購入者の気持ちも少し考えて欲しいものです。

Last update Dec.3.2013